ビジネス現場に求められるDX人材の育成に向けた大学の新たな挑戦

データ分析や業務アプリ構築まで、授業の学習基盤となったkintone


武蔵野大学

【学校紹介】
仏教精神にもとづいた浄土真宗本願寺派の宗門関係学校として1924年に設立、現在は12学部20学科、13大学院研究科、通信教育部、研究所・センターを擁する総合大学

2024年に創立100周年を迎える武蔵野大学では、主専攻となる学科に所属しながら、文理を問わず役立つ「AIを活用する力」を学ぶことができる副専攻と呼ばれる制度を採用しているが、この副専攻の授業内で学びの教材として採用されているのがkintoneだ。その経緯について、Musashino University Smart Intelligence Center(以下、「MUSIC」)教授 林 浩一氏および工学部 環境システム学科 2年生で副専攻の AI活用エキスパートコースを履修した大坪 璃音氏にお話を伺った。

【課題】DX人材の育成を目指した大学の新たな試み、学びの基盤整備が必要に

仏教精神にもとづいた浄土真宗本願寺派の宗門関係学校として1924年に設立、現在は12学部20学科、13大学院研究科、通信教育部、研究所・センターを擁する総合大学へと発展を遂げている武蔵野大学。「世界の幸せをカタチにする。」(Creating Peace & Happiness for the World)というブランドステートメントを掲げ、“アクティブな知を獲得し、創造的に思考・表現する力を備えて、世界の課題に立ち向かう”人材の養成を目指して、教育の質の充実に取り組んでいる。また、2050年の社会で活躍できる学生を育てるための学びのカタチを「響学スパイラル」と名付け、“問う”“考動する”“カタチにする”“見つめ直す”を繰り返しながら成長していく学びのスタイルを推進している。

そんな武蔵野大学では、所属学科である主専攻に加えて、異なる専門科目を体系的に学ぶことが可能な副専攻と呼ばれる制度を採用しており、新たに文理を問わず全学生を対象にAI科目としての「AI活用エキスパートコース」を2021年度より開設。この先進的な情報教育を推進していく組織として2019年にMUSICを設立し、全ての学生がAIの基礎知識を学ぶことで“AI-Ready-University”を実現することを目指している。「このコースでは、AI基礎やデータサイエンス基礎といった入門科目からはじまり、それらの活用に必要な情報技術技法やプログラミングなど合計18科目を学びます。AI活用に必要なスキルの積み重ねにより、現在ビジネスの世界で強く求められているDX人材を輩出していくことをテーマにしています」と林氏は説明する。

Musashino University
Smart Intelligence Center(MUSIC)教授
林 浩一氏

このAI活用エキスパートコースでは、AIの知識を学ぶだけでなく、それを活かすための問題解決手法を学ぶ「情報技法科目群」を用意している。情報技法とは、データを分析しながらアイデアを創出し、そのアイデアを論理的に説得していく力を身に付け、実際のビジネスシーンでの問題解決に活かしていく技術で、基礎と発展A・B・Cの4科目からなる。いずれもディスカッションしながらアイデアを組み立てて整理し、プレゼンテーションしていくというアプローチを繰り返し行い、企業を変革していくことのできる人材育成を進めている。「このうち『情報技法発展B』では、ビジネス現場の業務課題の解決を学んでもらおうと考えたのですが、学生にはビジネス現場の経験がないので課題をリアルに理解できないことに気付きました。そこで、データを蓄積して分析し、かつ現場の業務効率化に必要な業務フローなどを組み立てることで、擬似的なビジネス環境を作ることのできる情報基盤を学生に用意できないかと考えました」と林氏は振り返る。

【選定】業務フローがイメージしやすく、学生でも小気味よく使うことができる

ビジネス情報を学生が扱える環境を用意するため、ITに詳しくない文系学生でも負担なく操作できるノーコード・ローコードツールを中心に、市場シェアの高いソリューションを探索、選定することに。「このジャンルは、昔は超高速開発と呼ばれていたソリューションで、前職でも扱った経験がありますが、学生に使ってもらうには正直難しいものが多いと思いました。データを蓄積・活用する場面でも、データベースの知識なしに使えるものでないと無理だと考えていたからです。そこは相当ハードルを下げないと厳しいという感覚がありました」と林氏。また、「どう作るか」という開発の進め方ではなく、「何を作るか」を、使う側の立ち位置から考えて組み立てる力を身に付けることを重視したかったという。

そこで注目したのが、サイボウズが提供するkintoneだった。「DXを理解するには、その前に会社の業務を理解することから始める必要があります。そこで、発注や購買といった学生でも理解しやすい業務をテーマにしたうえで、小気味よく使えるツールがあれば、リアルな体験を通じてDXを実感できると考えたのです」と林氏。発注などの業務の動きを具体的にイメージしやすいワークフロー機能を持ちDBの知識がなくとも業務アプリを作ることのできるkintoneが最適だと判断したのだ

また、アプリとして意思決定に必要な情報を分かりやすくグラフィカルに可視化できるダッシュボードの仕掛けも同時に検討することに。「他の授業ではExcelのピポットテーブルやTableauなどデータ分析のツールに触れる機会があり、kintoneで定型的なグラフを作成するだけでは、それとは異なるレベルのアプリを作っているということを理解してもらいにくい。そこで、スライサーでの絞り込みやタイムラインで期間を絞り込んでリアルタイムに変更できるプラグインのkrewDashboardに注目したのです」。

その結果、データを蓄積したうえで業務のワークフローが再現できるkintoneを、そしてグラフィカルにデータを可視化できるソリューションであるkrewDashboardをベースに、DX人材育成に資する学びが得られる環境を整備していくことを決断することになる。

【効果】kintoneはDX概念を学習するためのアプロ―チとして正解だった

データの可視化や現場業務の課題解決に向けた業務アプリの作成にkintoneを活用

kintoneを活用した「情報技法発展B」と呼ばれる科目では、データを活用して業務課題の論理的解決とDXを学ぶということをテーマに掲げており、企業から許諾された数万件にも及ぶリアルデータを活用し、実際のビジネスシーンで活かせる業務改善提案スキルを学んでいく。初年度では80名ほどの学生が履修し、7週間の授業のなかでデータから現場の課題を見つけ、業務の改善に向けたアプリを検討し、kintoneを使って実装するまでのグループワークを中心とした授業に参加した。

発注業務の改善をテーマとした提案を一例に挙げると、現状の課題となるAsIsを分析したうえで、改善策としてのToBeを設定。この改善策では、メーカーごとの月別売上数量をダッシュボード上で把握し、そのデータに基づいて発注に進む業務フローが提案されている。このダッシュボードによる可視化をはじめ、売上数量予測の標準手順、発注時の差し戻しフローも含めてkintoneでアプリを作成、具体的な操作動画を含む提案資料に落とし込み、説得のためのプレゼンを行うまでの一連の流れを授業で行っている。

実際の授業の中で提案した内容

実際の授業の中で提案した内容

試行錯誤しながら実装、貴重な学びを就職に活かしたい

実際に履修した大坪氏は、「最初にkintoneを触ったときは難しさを感じる場面もありましたが、授業も後半になってくると自分で考えたことが可視化できるようになりました。ノーコード・ローコードという言葉はもちろん、要件定義やユースケースなど初めて聞くものばかりでしたが、社会に出る前に貴重な学びを得たことで自信につながっています。就職の時などにも役立てていきたいです」と素直な感想を語る。「教える教員の立場からすると、ちょっと難しいのではと当初危惧していた業務フローの設計や実装も、デジタルネイティブ世代だからなのか、学生は割とサクサクと使いこなしていたのにはびっくりしました」と林氏は驚きを隠せない。

工学部 環境システム学科 2年生
大坪 璃音氏

今回初めてkintoneやkrewDashboardに触れたことで、アプリ制作の裏側を垣間見ることができたことも大きいという。また、資料を作るのにあたって、どのように使われるのかを具体的に動かしたり、どうすれば見やすいダッシュボード配置になるのか試行錯誤できたことも大きな学びにつながっていると振り返る。また、業務フローの実装においては、承認プロセスにおける差し戻しの設定を試行錯誤しながらより良いものにできたことが印象に残っていると大坪氏。

試行錯誤できることは、学びにおいて重要なポイントだと林氏は指摘する。「見聞きするだけでなく本当にやってみてはじめて分かることは多く、そのことを学んでもらえたことが何より大切です。試行錯誤できるということは、ノーコード・ローコードで一番重要なところで、まさにkintoneが学生の学びに役立つ部分だと感じています」と林氏。

使う人の立場に立って開発できるkintone、プラグインの存在も展開に欠かせない

今回はkintoneを活用した授業のなかで学びを深めていったが、他の方法ではなかなか難しかったと林氏はみている。「この授業は、自分でデータを分析できるようになることが主眼ではありません。自分で分析するスキルのない人に使ってもらえることを前提に、アプリを作成して提供することがゴール。使う人の視点から必要な機能を考えることは、単に自分が提供したい機能を考えるよりもハードルが一段高い。そのことを実感して学ぶには、他の手法よりもkintoneが優れている点が多い印象です。おそらく受講生はDXに限りなく近い経験ができたのではないでしょうか」と林氏は評価する。

今回kintoneを活用して授業を組み立てていったが、なかでも魅力の1つにプラグインの存在を挙げている。「AI活用では、様々なツールを組み合わせて使うことが開発の主流になるので、いろいろな機能がプラグインとして利用できるのはメリットの1つ。大切なのは、小さく使えるものを組み合わせながらリアルな事例に当てはめ、課題解決の本質を自分で考えていくこと。kintoneの標準機能として用意して欲しかった機能もありますが、組み合わせで解決するということを学べたことはむしろ有意義だったと思います」と林氏は振り返る。

krewDashboardを活用したダッシュボードの画面

なお、副専攻としての取り組みについては、学外からの反響も大きかったという。「DX人材を育成するという取り組みとともに、その授業にkintoneを取り入れたというリリースは大きな反響を呼びました。先進的な取り組みとして各メディアに取り上げていただき、大学としてもkintoneを活用して良かったと実感しています」と林氏は評価する。

短期間ながらDXを学ぶ機会を創出、今後も活用の幅を広げていきたい

今回kintoneに触れたことで、これから取り組んでいくことになる自身の所属学科(主専攻)の専門分野にも応用できる部分があれば活かしていきたいと大坪氏。「kintoneを活かせる場面は、管理が必要なたくさんのデータがある場面だと思いました。授業では用意いただいた膨大な販売データがありましたが、自身の研究においてもデータをたくさん扱う場面があるはずで、kintoneやkrewDashboardをうまく使っていければ面白いのかなと思っています」。

副専攻における1つの科目において、kintoneを使ってDXという概念を学習していくというアプローチは正解だったと林氏は語る。「業務を知らない学生に業務改善プロセスを学んでもらう必要があるなど、DX自体を学校で教えていく難しさは確かにあります。今回kintoneのおかげで、7週間という短い期間ながらそのハードルを突破できました。今後も継続していきながら、さらにkintone活用のバリエーションを増やしたいと思います」と最後に語っていただいた。

kintoneを用いた新規カリキュラム開発のご支援

サイボウズでは、DX時代に求められるkintoneを用いたノーコード・ローコード開発を行うための「思考」や「スキル」を学習する新規カリュキュラム開発をご支援しております。随時セミナーも実施しておりますので、ぜひお気軽にご参加ください。



サイボウズ株式会社担当
唐松 教夫

※ kintone(キントーン)とは?

開発の知識がなくても自社の業務に合わせたシステムをかんたんに作成できる、サイボウズのクラウドサービスです。業務アプリを直感的に作成でき、チーム内で共有して使えます。部署や立場、スキルにかかわらず誰でも気軽に使い始めることができ、業務アプリをノーコード・ローコードで作成することで、現場の人が主体的に業務改善を推進できます。

※ 製品紹介動画

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