「アトツギカイギ」は事業承継に関わる課題にサイボウズ製品を活用して解決したい方が、仲間を見つけ、ヒントを得たり与えたりすることを目的とするコミュニティです。
2022年9月7日(水)、アトツギカイギの主催にて「アトツギ経営者が作る従業員の幸せ」をテーマにオンライン形式でイベントを開催しました。その様子をレポートします。
■イベント詳細
■今回の登壇者
kintoneで業務上のもやもやを多数解決
有限会社阿部木工 代表取締役 阿部 祥太 氏
木製のオーダー家具を製造する会社
有限会社阿部木工は1983年創業・従業員15名の会社です。少数の職人とパートタイマーを中心に業務が回っています。木製のオーダー家具の製造が主な事業で、高級マンションや戸建住宅、学校・病院・幼稚園などに、オーダーキッチン・壁面収納・テレビボード・小上がり収納などを納品しています。
登壇いただいた阿部氏は、2022年に30歳をむかえた若き社長です。事業承継をした直後は戸惑いもありましたが、現在は周囲の人々からアドバイスを頂きながら前向きに経営をしています。そんな阿部氏の発表内容は、kintoneで業務上のもやもやを解決した5つのエピソードでした。
その1:「図面を紛失する」「古い図面で製造してしまう」問題を解決
kintone導入のきっかけは家具の図面に関するもやもやでした。
1つめの問題は「紙の図面を職人さんが紛失してしまう」ことです。以前は設計士さんが図面を書くと、紙に印刷して工場に渡していました。この頃は、1日に5〜6枚もの図面紛失が起こっており、何度も図面の刷り直しを行っていました。
2つめの問題は「古い図面で家具を製造してしまう」ことです。図面が更新されたことに気づかずに、古い図面の内容で家具が完成し、作り直しが発生していました。
また図面変更については、作業中の職人さんに直接話しかけて知らせていました。しかし作業中に話しかけられることで「さっきまで何をしていたのか忘れてしまう」ことがあり、同じ作業に戻るまでに毎回10分程度のロスが発生していました。
この問題の解決策としてkintoneで作ったのが「工程進捗管理アプリ」です。同アプリでは、1レコードに1案件を登録します。案件情報として物件名・取引先・図面・制作物名・工程管理のステータスも記入します。図面はPDFで登録し、変更がある場合は新しい図面を上書きします。職人さんは図面をタブレット端末でアプリから確認します。図面変更のお知らせは業務用のLINEグループで発信します。
この方法に業務フローを変更するにあたり、図面の印刷は一切禁止しました。導入当初は従業員さんから「紙で図面の印刷を!」と反発がありましたが、阿部氏は「設計担当者に印刷は絶対にNG」と通達し、トップダウンで業務フローを切りかえました。「会社のルールを変える時に皆の意見を汲み取ることは大事なので、相談しながら変える場面とトップダウンでやる場面を切り分けている」と阿部氏。
今回は、何としてでも変えるべきだったことから振るった大なたでした。結果、図面の変更情報はリアルタイムで共有されるようになり、紛失や古い内容で制作してしまう問題、作業中に話しかけてしまう問題は全て解決しました。
その2:資材や金物の在庫の所在が分かりにくい問題を解決
オーダー家具を作るためには資材や金物などが沢山必要です。同社には資材・端材・金物部品が多数在庫されており、それらの在り処が分かりにくいため、必要なものを探すことに時間がかかっていました。
これらの問題を「在庫管理アプリ」と「金物在庫管理アプリ」で解決しました。両アプリには部品の名前・メーカー品番・保管場所を登録しています。アプリでは検索ができるので、必要なモノの在り処がすぐに分かるようになりました。また原価率・変動費の削減にもつながりました。
その3:パートさんの出勤日時の把握が難しい問題を解決
パートさんが主力の同社では「その日、誰が出勤予定なのか」を把握することに難しさを感じていました。
そこで「出勤表アプリ」を作成し、カレンダー形式でその日の出勤者を確認できるようにしました。急に休むことになった場合は、パートさん本人がアプリの情報を随時変更できるようにしたことで、リアルタイムに出勤者を把握できるようになりました。
その4:従業員の有給・残業状況の共有が難しい問題を解決
以前は有給や残業の申請を紙で提出しており、誰がいつ有給を取得したり残業をするのかは周囲にはわかりませんでした。
現在は「残業申請アプリ」と「有給申請アプリ」で申請を行う方式に変更し、アプリを誰でも閲覧できるようにしました。これでいつ誰が休みなのか、残業をするのか記録として残るだけでなく、周囲に情報共有もできるようになりました。
その5:一人ひとりの日々の活動内容が見えない問題を解決
以前は一人ひとりの日々の活動内容が見えませんでした。そこで「日報アプリ」を作成し、日々の活動内容を書いてもらうようにしました。
これで、いつ・誰が・どこで・何を・どれくらい行っているかが見えるようになりました。「日々どんなことを感じているのか、考えているのかなど、日々の頑張りまでも見えるようになったことは、大きな変化だと感じています!」と阿部氏は日報の効果を教えてくれました。
なお、同社にkintoneを提案してくれたのは伊予銀行さんでした。IT導入補助金を利用し、同社のコンサルティングを受けながらアプリを構築しました。「kintoneのお試し期間を利用し自分でアプリを作るにも、どう作るのか、何ができるのか、よく分からなかったので、サポートをしてもらえて導入障壁が下がったと思います。」と阿部氏はこの時の感想を教えてくれました。
質問:若い社長として大変なことはありますか?
事業承継をしたあたりは戸惑いもありましたが、現在は苦痛に感じるような大変さはありません。売上減少や資金繰りなどの苦労は周りの皆様と同様だと感じています。
質問:T導入補助金の利用の詳細を教えてください
IT導入補助金の内訳は、伊予銀行さんのコンサルティング費用とkintoneのランニングコストの1年分を計上し、その半分を支給いただきました。コンサルティング費用のウエイトがより大きかったです。
30分を3分に。kintoneで実現した従業員の幸せ
株式会社土田化学 土田 翔大 氏
小型のプラスチック製品を製造する会社
株式会社土田化学は1949年創業・従業員21名の会社です。合成樹脂の製造をしており、主に照明器具に使われる小型の製品を作っています。土田氏は1994年の生まれで、営業職を経て2022年から跡継ぎとして土田化学の業務に携わっています。そんな土田氏は従業員の幸せを「ルーチン作業を減らして、自分たちの頭で考える仕事ができるようになること」と定義。そのために取り組んだエピソードを教えてくれました。
受注処理で、不要なデータを削ぎ落とす作業が毎日30分必要
土田化学では、お客様からの注文はEDI(Electronic Data Interchange) 形式の電子情報で届きます。EDIの仕様上、注文にまつわる色々なデータが紐付いて届きますが、土田化学側が製造に必要な情報はその中の6つだけです。必要箇所を抽出するためにExcelでの作業が必要で、これには毎日30分必要でした。
本当にほしい部分である、注文番号・注文数量・発注者コード・納期・品名・発注者用備考を抜き出すための手順を洗い出したところ、Excelで6ステップの作業をしていることが分かりました。
受注処理の作業フロー
この手順を見て土田氏は「めんどくさいことをしているなあ!」と思ったそうです。そんなExcel作業には、手間がかかること以外にもいくつかの問題がありました。
1つめは、Excelは同時編集できないため、誰かがファイルを開いたまま離席すると他の人が編集できないことです。2つめは、手入力で必要なデータを記入していたので、写し漏れがあると納期を守れないなどのトラブルが起こってしまうことです。3つめは、保存ボタンを押さずに作業を終了し、編集内容が飛ぶ事件が発生することです。
跡継ぎ仲間のすすめでkintoneを導入し、30分の作業を3分に短縮
この問題の解決策に土田氏が選んだのがkintoneでした。営業畑だった土田氏はシステムに詳しいわけではありませんが、跡継ぎ仲間からkintoneをすすめられたことで導入に踏み切りました。土田氏は自ら学びながら受注情報の処理を行うkintoneアプリを作成しました。
CSVデータはいつも同じフォーマットで送られてくるので、kintoneのCSVの読み込み機能を利用して、欲しい情報だけをボタン一つで読み込めるようにしたのです。これで毎日30分かかっていた作業が3分に短縮されました。
CSVをアップロードする画面
必要な情報だけが読み込まれた様子
土田氏は、kintoneの良かったところを受注処理が短縮できたこと以外にも2点教えてくれました。
1つめは生産管理や出荷準備でも良い結果につながったことです。2つめは、受注処理はパートさんや生産管理をする社員さんが行うのですが、彼らから「出荷時にロットを記入する場所がほしい」「特殊加工の注文内容をメモするための備考欄がほしい」など、要望があった時にすぐにアプリを改善できることです。
ルーチン作業をアプリで1/10に減らすことができただけでなく、現場の皆様から改善要望も出るようになった同社。今後は従業員の幸せの定義どおりに、考えて動く仕事が増えていくのだろうと感じることができる発表でした。
質問:アプリの開発はご自身でされているのですか?
今は自分自身で勉強をしながら私が開発しています。ネットでカスタマイズ方法を調べたり、Twitterで交流しながらレベルアップできるのが楽しいのです。ゆくゆくは社員に任せたいです。
アトツギ経営者の妻が作る従業員の幸せ
愛媛バス株式会社 取締役 森川 由貴 氏
愛媛県のバス会社
愛媛バス株式会社は1988年創業のバス会社です。社員25名のうち運転手が16名、営業と事務が9名です。車両は22台所有しており、県内では中堅どころの規模といいます。事業内容は貸切バス事業と旅行事業の2つで、コロナ前は年間2万人のお客様とバスツアーに出かけていました。
そんな同社に、自然が大好きで石鎚山によく登っているという森川氏は、跡継ぎ経営者の妻という立場で入社しました。入社当時、森川氏は「うちの会社は居心地が悪いな」と感じたそうです。
その原因のひとつが、運転手出身の先代と、旅行会社の営業視点を持つ社長の間で意見が食い違っていたことでした。二人の経営者に挟まれて「自分はどう振る舞えば、会社のみんなが幸せになるだろうか?」と森川氏は自然と考えるようになりました。
幸せとは何か。森川氏は自分の立場から他人の幸せを考えることは難しいと感じたので、「自分が従業員だったらどうなると幸せだろうか?」と思考した結果、取り組み始めたのが「根本的に会社の文化を変える」ことでした。
森川氏は、戦略とビジョン・仕組み・意識を変えると文化は変わると考えています。この中で最もやりにくいと感じたのは、個人の意識に焦点をあてて意識を変化させることでした。
「意識」を辞書で調べてみると「物事に気づく」という意味であり、意識を変えることは心理的で哲学的で宗教的な要素が大きいととらえた森川氏。そんな見えない意識に焦点を当てるために社員の「幸せを感じられる人間性」を育てる必要性を感じました。
森川氏が文化を変えるために行ったのは、社員教育の実施・評価制度の整備・心理的安全性の確保・環境改善(社内ルールの整備)・ビジョンを見出すことの5つです。その中で、幸せを感じられる人間性を育てるために評価制度の評点の1つに「人間力の評価」を取り入れました。
素直さ・謙虚さ・感謝の心など、人として大切な部分が育つ会社になることを重要視しながら社員の評価を行う取り組みが始まりました。
kintoneを通じて人間力を育てる
そんな同社の教育や文化の醸成に、現在ではkintoneが寄与しています。例えば、新しくできたルールはkintoneに表示することで、kintoneがマニュアルとして機能します。またkintoneでのやり取りでは「相手を想う情報共有をする」という目標を設定しており、積極的に発言することを推奨しています。これらの取り組みの結果、kintoneを使うほどに仕事スキルと人間性が育ってきました。
加えて通常の業務アプリの公開範囲を広めに設定することで、従業員ひとりひとりが自分の仕事の影響範囲を考えたり、情報共有の理由を考えたりするきっかけを仕掛けています。
例えば、従業員は直接関与していない仕事でも「アプリ通知」が届くことがあるため、社内での色々な出来事を知ることになります。すると自身が発信する時にもどこまでそのコメントが影響を与えるかを考えながら発信するようになったのです。
kintoneでコメントをすることが当たり前の環境になったことで、社員の気持ちや人間関係がコメントから見えてくるようになりました。他人の気持ちが見えることで社内の心理的安全性もアップしました。
今では通常業務のコメントを注意深く読んでいるとその人の業務姿勢を理解できるので、必要に応じて教育しますし、それら業務でのエピソードを通じて人事評価もできるようになりました。
そんな暖かなエピソードを教えてくれた森川氏は、最後に「会社は社員を想い、社員はお客様を大事にしてくれる。このサイクルを回すためには、kintoneを使い続けていくと叶っていくんじゃないかなと思います。」と発表を締めくくりました。
質問:ITが苦手な社員さんもkintoneでコメントするようになりましたか?
ITツールが苦手な人ほどコメント欄を使っています。例えばアプリの入力方法が分からないので、とりあえずコメントに必要な情報を入れておく、といった使い方が実際にあります。
質問:従業員はどの端末でkintoneを利用していますか?
営業は出先ではスマートフォンを利用しています。他は会社のパソコンです。自宅で利用する場合は自宅の自分の端末を利用しています。
質問:人間力評価は給与などに反映されますか?
はい。人事評価制度を整えていて、人間力も評定に反映します。
まとめ
第5回 サイボウズアトツギカイギ 情報交換会。登壇者発表では、従業員の幸せのための施策が多数登場しました。
業務のモヤモヤをkintoneアプリで解決した具体的なエピソードからは、情報共有が従業員の幸せに直結することがよく分かりました。
いつもの作業を短縮した事例は、自社にも減らせるルーチン作業がないかと考えるきっかけになりました。
またkintoneの活用で従業員の人間力が上がるというアイデアには驚きの声があがりました。これを聞いた誰もが「コメント欄をもっと活用しよう」と考えたことでしょう。
今回は、従業員の幸せのためのアプリの具体的な活用法から、社内文化を変えるという抽象的なテーマまで幅広い話題を提供いただき、有意義な時間となりました。ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。